第六章 続く退職者と、業者たかり

続く退職者の波

相変わらず他部署でも毎月のように長くこの会社に貢献してきた複数名の退職が続いています。そんな中、所属している部署でも長らく業務を支えてくれていたベンダーからの出向社員1名が先々月契約解除、先月末でまた1名が退職、今月は海外在住者1名が日本担当から外れます。このペースでいくと、もう自分を含め来年には知っている人は会社に残っていないのではないかとまで思うほどです。

そのうち1名の退職者については、今年に入って私用で休みがちになり、40日以上あった有休も残り2日の状態でとうとう退職勧告を受けたようで、自主退職するようです。

 

正直に言ってしまうとその退職者は、自己判断で業務を進めるあまり好きではない人でしたが、この会社の今年の人事の酷さを身をもって知っているだけに全く喜ばしい状況ではありません。口は上手くのらりくらり世渡りできるようなタイプで外資の新しい上層とは馬が合いそうでしたが、他に辞めさせようと圧力をかけ続けているメンバー達が意外にも圧力に耐え未だ辞めないために、人員補充の予算を鑑みて刃がそちらへ向かったのかもしれません。その人がどうこうと言うよりも、消えてゆく人がいると言う事実だけでやはり、周囲はなんとなくモチベーションが下がり、陰鬱な雰囲気になります。

見せかけの「自主退職」

最近、「自主退職」という言葉を耳にするたびに、嫌悪感を覚えるようになりました。その理由は、圧迫面談などでひたすら圧力をかけ、「自主退職」に追い込む行為が実際には「自主」とは程遠いものであることを知っているからです。もちろん、本当に能動的に、何の圧力も受けずに自ら退職を選んでいる人もたくさんいるでしょう。しかし、この会社におけるこの1年間の傾向は、明らかに異なっています。

「自主退職」ではなく、実際には圧力をかけて追い込み、「自主」のように見せかけた退職――それは詭弁です。時に得意げにその言葉をあえて使う場面に直面すると、嫌悪感を覚えずにはいられません。

 

買収前から在籍していた人員については、よほどのイエスマンで変わり身の早い風見鶏のような人物でない限り、全員一掃する計画でもあるのかもしれません。しかし、もしそれが意図的な方針であるならば、せめてお礼金を支払い、会社都合退職とするなど、多少なりとも誠意を示すべきではないかと感じます。

神にでもなったような振る舞い

人の人生をこうも簡単に圧力をかけて変えてしまうことに違和感を感じます。特に、今年新たに入社し品位のかけらもない圧力をかけ続けている側の人たちは、何人もの人生を変えて、恨みを糧にするような仕事をしていて、果たして楽しいのだろうか?と疑問に思うことがあります。神にでもなったような心持ちで、その重さや苦しみを実感することなく、他人を追い詰めることに快感を覚えているのかもしれません。

 

表向きは「楽しい企業」を装うかのように、エンゲージメントイベントと称した取り組みが行われるようになりました(社員との絆を深めるという偽善的なネーミングの下で)。毎月のようにお菓子配りなどのイベントが企画され、まるで子供騙しのような演出が続いています。

しかし、そうした浮かれた企画は、傍らで進行している他人の人生を大きく変えるような圧力の闇と対比され、闇を知る人間にとってはなおさら気味悪さを感じさせるものです。

 

地獄への道は善意で舗装されている

まさにこの状況を言い表しているかのようです。

 

 

バリ島でのプレゼン?

さて、突然、取引先から持ちかけられた一つの「機会」――インドネシアのバリ島でのとある1企業のイベントでプレゼンができるという話。あなたはどう感じますか?

「参加費は100万円。この『貴重な機会』を手に入れてみませんか?」

取引先企業は、おそらく弊社の社員からそんな声がけをされたことでしょう。

 

一見すると、販路を広げるかのようなお誘い。南国の楽園バリ島でのプレゼンの舞台が用意され、会社の顔として一躍注目を浴びる機会に見えるかもしれません。しかし、その裏にはビジネスの本質が隠れています。

 

会社が提示したのは、いわゆる「サプライヤー詐欺」に他なりません。利益を上げるために、サプライヤーに過大な負担を強いる「偽りのチャンス」――それが真実です。

なぜなら、契約を切る算段案が出ており、そのために色々な手段を講じている相手企業に対しても複数、誘いをかけているからです。

搾取と偽善の構図

この100万円は、会社の名誉のために払うものではありません。イベントを企画する企業(弊社)が取引先を狙い、金銭を搾取するよくある手法です。表面上は「ビジネスチャンス」、裏では利益だけを狙うさもしい計画。「たかり」そのものです。この詐欺的な戦略こそが偽善にハリボテされた利益追求の表れであり、社員を守るどころか駒として利用する体質、取引先であっても使えるものは使って搾取しようとする体制が如実に表れています。

 

ちなみに、声をかけたサプライヤーのうち、特に大手からは速攻でお断りが来たようです。

当然のように見えます。

この話を耳にした時、「恥晒し」と感じてしまいました。他の同僚たちも、私の周りは同じことを感じたようです。

 

6年ほど前までは超優良企業であったのに、目的のためには手段を選ばず、かつての品位を失ってしまったように感じます。上層人員がすべてすげかわってしまったのだから、当然かもしれません。まるで恥も外聞もない別企業のように変わり果てた姿は、残念でなりません。

 

第七章へ続く